クリニックいわた医師(脳神経外科)
同志社大学非常勤講師(社会福祉学科)
安井 敏裕
第31回 高次脳機能障害 <CT, MRI以外の画像診断法が意味を持つ場合>
前回の<其の30>に少し追加したいと思います。自賠責保険での「脳外傷による高次脳機能障害」の認定システム検討委員会の見直し結果が2018(平成30)年5月31日に明らかとなったことを前回に書かせて頂きました。しかし、脳外科医として最も気になる「器質性病変」の画像診断に関しては前回の平成23年の見直し内容と全く変わっておりません。平成23年の見直しから今回の平成30年の見直しまでに約6年経過しており、高次脳機能障害者に見られる拡散テンソル画像(DTI)、fMRI、MRスペクトロスコピー、PETなどCTやMRI以外の諸検査の所見を検討した多くの報告があるにもかかわらず、簡潔に述べますと「器質的脳損傷の証明には通常のCTとMRIで十分である」という結論になっています。しかし、著者が勤務するクリニックにおいては、MTBIでは高次脳機能障害の認定が受けられない方々が、CTやMRI以外の諸検査を持参して来られます。自賠責保険の検討委員会での考え方、「これらCT, MRI以外の諸検査のみでは脳損傷の有無、認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を判断することが出来ない」がある限りは、私としましては患者さんが持参されてこられたCT, MRI以外の検査の所見を診断書に記載してはおりますが、ほとんど意味のないことをしているのではないかと自問自答しているのが現実です。
ただし、認定システム検討委員会の平成30年5月31日の報告を詳しく読みますと、これらCT, MRI以外の検査が、「参考になる場合」があるとも書かれています。すなわち、「当初のCT, MRIにおいて脳損傷が明らかであったものの、時間経過と共に損傷所見が消失した場合など脳外傷による障害の残存に疑義が生じる場合には、CTやMRI以外の拡散テンソル画像(DTI)、fMRI、MRスペクトロスコピー、PETなどの検査において整合性のある一貫した所見が窺えるものについては、補助的な検査所見として参考になる」とあります。あくまでも「CT, MRIにおいて脳損傷が明らかであった」症例の補助として参考にすると言うことです。繰り返しになりますが、「器質的脳損傷の証明には通常のCTとMRIで十分である」というのが、今回の平成30年度の改訂の結論です。このことを十分に理解して、次回改訂までの間は、高次脳機能障害の診断書の作成をしていこうと再確認している次第です。