第30回 高次脳機能障害 <期待はずれの平成30年度見直し>

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

岩田記念診療所医師
大阪市立大学脳神経外科非常勤講師
安井 敏裕

第30回 期待はずれの平成30年度見直し

2018.10.22

2011(平成23)年以来行われていなかった自賠責保険での「脳外傷による高次脳機能障害」の認定システムの見直し内容が、2018(平成30)年5月にやっと漸く明らかとなりました。ところが、「器質性病変」の画像診断に関しては平成23年の見直し内容と全く変わっていないことに少し落胆しました。「脳外傷による高次脳機能障害」の認定システムは2001(平成13)年以来運用されてきましたが、「現行の認定システムでは認定されないものが存在する」という理由で、これまでに2003(平成15)年、2007(平成19)年、2011(平成23)年の三度に渡り認定基準の見直しが行われました。特に平成23年の見直しでは、MTBI(mild traumatic brain injury)と表現される「軽度外傷性脳損傷」でも高次脳機能障害が生ずる可能性について多くの検討がなされました。しかし、2006(平成18)年に作成された行政的高次脳機能障害の診断基準にある、「MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されていること」という項目の存在のために、MRIやCTで「器質的病変」が認められないことが多いMTBIでは高次脳機能障害の認定が受けられないという状況は解消されず、今日まで高次脳機能障害患者に対する診断基準の混乱は収拾されていません。

平成23年の見直しで示された画像診断に関する取り決めは、①器質的病変の判断にはCT、MRIが最も有用である。、②通常のMRIの撮像法では見落としが生じることがあるので、T2*やSWIという撮り方を行うことが期待される。、③拡散テンソル画像(DTI)、fMRI、MRスペクトロスコピー、PETについては、それらのみでは、脳損傷の有無、認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を判断することが出来ない。の三点であった。平成23年の見直し以来今回の30年の見直しまでに約6年経過しており、この間に③に関して多くの論文の発表がなされ、新たな知見も報告されてきました。私も今回の見直しでは③に関して何らかの意見集約が示されるのではないかと期待していました。しかし、③に関しては、「現在進行中の検査法であって確定的なことは言えない」と断じており、平成30年度の見直しでは器質的病変の診断に関しては、いわば「ゼロ回答」で、前記平成23年見直しの①、②、③がそのまま引き継がれました。すなわち、いつになるか分からない次回見直しまでの間、MTBIに関しては保険会社や弁護士の方々と現在と同じような「不毛の議論」をしなければならないのかと、いささか憂鬱な気分になります。