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第28回 一酸化炭素中毒(CO中毒)による高次脳機能障害

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

クリニックいわた医師(脳神経外科)
同志社大学非常勤講師(社会福祉学科)
安井 敏裕

第28回 一酸化炭素中毒(CO中毒)による高次脳機能障害

2018.01.17

高次脳機能障害を引き起こす原因には、脳外傷、脳卒中、酸素脳症等があり、これまで、本コラムでは頻度の多い脳外傷によるものを取り上げてきました。平成29年12月16日の朝日新聞に「CO中毒と脳障害」という記事があり、一酸化炭素中毒(CO中毒)による高次脳機能障害のことが取り上げられていました。低酸素脳症とは窒息、心停止、呼吸停止、極端な低血圧、一酸化炭素中毒等のために脳に十分な酸素が行かなくなり、脳全体に障害が生じる状態です。5分以内に十分な酸素が再度脳に供給されれば後遺症なく回復することが多いですが、それ以上の時間になると、脳の中でも特に酸欠に弱い側頭葉内側(海馬)、大脳皮質などに元に戻らない変化が生じ、意識障害、けいれん、高次脳機能障害、手足の震えなど様々な症状が残ってしまいます。火災による死因でやけどと並んで多いのが、一酸化炭素中毒だそうです。総務省消防庁の発表によりますと2015年度の火災による死者1563人のうち一酸化炭素中毒・窒息は501人(32.1%)で、やけどの487人(31.2%)を上回っていました。

一酸化炭素は無色・無臭で、赤血液中のヘモグロビンという酸素を運ぶタンパク質との結びつきやすさが酸素の200倍以上と言われています。この結果、脳は酸素不足に陥ります。大気中の一酸化炭素濃度が400ppm (0.04%)以上の中に数時間いると循環・呼吸系に影響が出始め、5千ppm (0.5%)では5分で死亡することもあります。命を取り留めても、後遺症として「何度も同じことを聞く」「順番を守れない」「ぼんやりしている」「我慢できない」「パニックになる」「すぐに暴言や暴力をふるう」などの高次脳機能障害を残すことがあります。1963年に福岡県大牟田市の旧三井三池炭鉱三川杭であった炭塵爆破事故では、死者458人を数え、一酸化炭素中毒患者も839人を数えました。そして、多くの患者さんが半世紀以上たった今でも高次脳機能障害に苦しんでおられます。現在、これらの患者さんのケアにあたっておられる医師の、「患者の体の中には、ずっとガスが生きていました」という言葉には実感がこもっています。これらの患者さんの中には高齢化の影響で記憶障害が悪化してくる人もおられるそうです。ただし、継続してリハビリテーションを行っておられる人の中には、精神症状がやや改善する人もいるのも事実で、高次脳機能障害者に対する長期的ケアの重要性が示唆されます。