第26回 三種類の「心」

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

岩田記念診療所医師
大阪市立大学脳神経外科非常勤講師
安井 敏裕

第26回 三種類の「心」

2017.02.14

本シリーズ「其の21(脳と心)」において、ディズニーのアニメ映画「アナと雪の女王」を観た印象を書きました。映画の中で、岩の妖精トロールが言った、「頭だったからよかったものの心だったら治せなかった」というセリフが、私には大変興味深く感じられました。そして、このセリフを聞いた時に、私は「心」に関して二つのことを思い出していました。一つは、日本では「心」は脳が作り出すものであって、「脳と心は一体」のものであると考えられていますが、欧米では「脳と心は違う」という考え方が一般的であるということです。もう一つは高次脳機能障害者になった医師の山田規畝子さんがご自分の著書の中で「脳が壊れても"心"は変わらない」と書いておられたことです。高次脳機能障害は、それまで普通にできていた認知機能や日常生活が突然できなくなってしまう、一種の喪失体験ですので、変わってしまった自分に対する驚き、否定、怒り、悲しみ、不安などのために、患者さんはしばしば抑うつ状態になったり衝動的や攻撃的な態度を取ったりしてしまうことがあります。高次脳機能障害に関わる全ての医療者・患者家族は、患者さんの「心の問題」に常に配慮する必要があります。

映画「アナと雪の女王」を通して、日本人と欧米人で「心」のとらえ方が少し違うことに触れましたが、最近読みましたアメリカ人が書いた本に、日本語の「心」を英語で表現するのは大変難しいと書かれていました。結論的に言うと、日本語の「心」をそのまま表す英単語は無く、マインド(mind)、ハート(heart)、ソウル(soul)の三つを使い分ける必要があるようです。例文として、「彼は優しい心の持ち主だ」を英語にする場合、大抵の日本人は、"He has a good mind."と訳しますが、これは間違いで、"He has a good heart."が正解であると書かれていました。日本では、「心」は脳で作り出されるのであって、「考えるところ」も「感じるところ」も同じと捉え、どちらも「心」が司ると考えます。しかし、英語では「考えるところ」と「感じるところ」は別々のところにあると考えているようです。すなわち、「考えるところ」がマインド(mind)で、知性・思考・意思決定などを担当します。一方、「感じるところ」はハート(heart)で、頭で考えてもどうにもならない喜怒哀楽はハートが担当するわけです。欧米人は感情、愛情、優しさ、思いやりはハート(heart)から生み出されると考えます。従って、「自分の心は決まったと彼は私に言った。」は"He told me that his mind was made up."、「彼女があんなにも不幸なのを見ると心が痛む。」は"It breaks my heart to see her so unhappy."となります。また、「魂」や「本質」を表す場合の「心」は、ソウル(soul)を用います。「俳句と短歌は日本人の心だ」は、"Haiku and Tanka are expressions of the Japanese soul"となります。英語を通して、日本語の「心」はマインド, ハート,ソウルの三つの意味を持っていることが理解できました。