第25回 メタ認知と就労支援

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

岩田記念診療所医師
大阪市立大学脳神経外科非常勤講師
安井 敏裕

第25回 メタ認知と就労支援

2016.07.26

 高次脳機能障害者やそのご家族が "働きたい"、"働かせたい"とうニーズを持っておられる場合に、医学的見地からその適否ないしは可否について意見を求められることがあります。その際、患者さんご自身が障害を持っていることを理解されていない場合には就労支援は大抵うまく行きません。たとえば、精神障害者保健福祉手帳の作成や障害者枠での就職について説明しても、「手帳なんかは要りません」、「障害者枠での就職は嫌です」という返事をされることがあります。

 普通、私たちは、「自分は寂しがり屋である」とか、「コンピューターが得意である」など自分自身のことは自分で評価できます。このように、外から見ている自分によって、自分自身を評価することを、心理学では「メタ認知」と言います。メタ(meta-)とは、「高次な-」「超-」「-の後ろの」等の意味の接頭語で、「メタ認知」とは言葉を変えますと、「知っているということを知っていること(Knowing about knowing)」ということになります。脳損傷患者さんの研究から、前頭葉の前の方(前頭前野)がメタ認知に深くかかわっていることが分かっています。高次脳機能障害者ではしばしばこの前頭前野が損傷されていることが多いため、メタ認知の障害をきたすことがよくあります。

 メタ認知には二つの大きな働きがあります。一つは「自己モニタリング機能」で、もう一つは「コントロール機能」です。「自己モニタリング機能」があるので、私たちは自分自身についての気づきと評価が出来ます。すなわち、「内省」が出来ることになります。また「コントロール機能」があるので、自己モニタリングの結果を踏まえて、初めに立てた目標を修正したり、新たな目標を設定したりすることもできます。しかし、メタ認知が働かないと、傍から見ていると物忘れや仕事のミスが多いのに、「自分は記憶力が低下している」、あるいは「仕事でミスしている」という自覚がありません。自分は普通であると思っているのに、突然「病院へ行って障害者手帳を作ってもらおう。障害者枠で就職しよう。」と言われるわけです。身に覚えがないことを言われるので、当然、驚き、反発もします。このような場合、無理やりに病院や役所へ連れていくのはよくないと思います。本人は普段から何とはなしに不安に思っておられるので、やはり自分はだめだと否定的になったり、うつ傾向が増大する恐れがあるからです。しかし、なんとか病院へ来ていただいたら、医師と言う"権威"で、障害を納得していただけることもたまにはあります。