第23回 脳の陰の活動

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

岩田記念診療所医師
大阪市立大学脳神経外科非常勤講師
安井 敏裕

第23回 脳の陰の活動

2015.01.20

 私たちの脳は、しゃべったり、計算をしたり、本を読んだりなどの意識的な仕事をしている時だけ活動し、何もせずにぼんやりしている時には休んでいると考えられてきました。しかし、最近の脳研究では、そうではないことが分かっています。すなわち、何もしていない安静時にも脳は活動しており、しかも、何もしていない時に脳で費やされるエネルギーは、意識的に何かしている時に脳で使われるエネルギーの20倍であることも分かっています。私たちが何もせずにぼんやりしている時でも脳は休まず活動を続けているわけです。アインシュタインが流布した「私たちは10%しか脳を使っていない」という「神経神話」を信じている人が今でもいるかも知れませんが、そうではないということです。
   
この何もしない状態の脳活動は、何ヵ所かの脳の領域から構成されたネットワークで、「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」と呼ばれています。DMNの日本語訳はまだありません。DMNは自動車で例えれば、停車していてもいつでも発進できるようにエンジンを停止させないでおくスタンバイ状態あるいはアイドリング状態と言えます。自動車の発進の場合のように、これから考えて何かを行おうとする場合の備えとして、重要な役割を果たしていると考えられます。また、DMNは「社会脳」と言われている前頭葉を中心とした領域と重なっていることも分かってきました。この社会脳は「他者の理解」や「自己の理解」に関わる部分です。
   
以上のように、人間の脳は「課題や目標のはっきりした仕事をこなす」ためのネットワークと、「他者の理解や自己の理解をする」ためのネットワ-ク(DMN)持っていることになります。高次脳機能障害との関連でいいますと「注意障害」、「遂行機能障害」などは、この二つのネットワークの切り替えがうまくいかなくなった結果ではないかと考えられます。たとえば、右脳損傷の結果、常に動いているか喋っているかの状態になってしまった患者さんの症例を本で読んだことがありますが、この患者さんの場合にはDMNへの切り替えがうまくいってないのではないかと考えることもできます。また、「社会脳」と重なっている部分が多いDMN自体が障害されると、当然ながら「社会的問題行動」が起こってしまうと思います。さらに認知症の主たる原因であるアルツハイマー病の場合に顕著に萎縮する脳の場所とDMNの場所が重なっていることも知られています。今後、DMNを研究することにより、脳の認知機能、すなわち、高次脳機能の理解をするための手掛かりを得られる可能性があります。