第18回 障害の当事者

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

岩田記念診療所医師
大阪市立大学脳神経外科非常勤講師
安井 敏裕

第18回 障害の当事者

2014.02.06

 2013年12月4日に、障害者の差別禁止や社会参加を促す国連の「障害者権利条約」の承認案が参院本会議で可決され、条約発効から5年余りでようやく日本の批准が実現することになりしました。この条約は2006年12月の国連総会で採択され、世界の137カ国と欧州連合が批准していたものですが、遅まきながら日本もようやく批准したということです。

 日本の批准が遅れた理由は、日本の国内法が「障害者権利条約」の求める水準以下であったためです。そこで、まず、2011年に障害者基本法を改正し、2013年に障害者差別解消法を成立させ、ようやく国内環境が整い批准に至ったわけです。障害者基本法というのは1970年にできた法律で、障害ある人の法律や制度についての基本的な考えを示した大事な法律です。この障害者基本法が今回どのように改正されたのかを調べてみますと、国連の「障害者権利条約」の基本的考え方である "Nothing About Us Without Us"(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)に基づいて行われたことがわかります。この考え方は、障害に関する法律や研究が障害の当事者抜きで行われるのはおかしいというものです。障害を持っている当事者が、自分の生活・人生についてどんな学者よりも一番よく知っているのは当然のことです。この考え方に基づき、今回の改正においては、改正案を作成する会議のメンバー26人のうち半分以上が知的障害、精神障害、身体障害などの障害の当事者から選ばれました。そして、これら様々の障害を持っておられる方々全員が会議にきちんと参加できるように、いろいろな障害に応じた対応(合理的配慮)がとられました。すなわち、知的障害がある人のためには会議資料にはふり仮名が付けられ、視力障害や聴覚障害を持っている人のためには点字通訳や手話通訳もされました。このようにして出来上がった「改正障害者基本法」(わかりやすい版)を見ますと、全ての漢字にふり仮名がふられており、図も多用されていて、大変読みやすいものになっています。

 また、最近では認知症、発達障害、高次脳機能障害などの障害の当事者の方々が自分の状態や気持ちを語ってくれる機会が増えてきました。このような貴重な発言を通して、我々も、「介護者は疲労困憊しているが、本当につらいのは障害を持っている当事者である」ことを知ることができるようになりました。たとえば、10年前までは認知症に関して、「本人は何も分からないから、認知症の問題は介護者の問題である」などという間違った考え方がありましたが、若年性認知症の患者さんが2004年に京都で開かれた国際会議の際に、皆の前で日々の苦労をいろいろと語ってくれたおかげで、認知症の常識が根底から覆されました。さらに最近では当事者研究という取り組みも始まっています。これは精神障害や発達障害のある人々が自分自身の抱える問題を研究するという取り組みです。

 このように、"Nothing About Us Without Us"という考え方で、障害の当事者が発言したり、研究に関わることで、今最も欠けている障害のある人・患者・介護保険利用者などの当事者・家族と、医師をはじめとする医療関係者・その他の専門家との間の「共通言語」が出来上がり、互いに「話が通じ合う」ようになってくると思います。