第19回 病識欠落

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

岩田記念診療所医師
大阪市立大学脳神経外科非常勤講師
安井 敏裕

第19回 病識欠落

2014.02.25

 私の経験では、外傷性高次脳機能障害の患者さんが、自分の意志で受診されたことは一度もありません。また、高次脳機能障害の診断書作成に際して、「自覚症状」の欄を患者さんご自身が述べられこともほとんどありません。大抵はご家族が、その患者さんが事故前後でどのように変わってしまったかを箇条書きにした文書を持ってこられ、私はそれを参照して「自覚症状」の欄を埋めることになります。すなわち、高次脳機能障害の患者さんは、ご自分が障害を持っていることに対する認知がうまく行かず、障害がないかのように振舞ったり、言ったりされます。いわゆる、「病識欠落」といわれる症状です。

 普通、私たちは、自分自身を自分で評価しています。「私はおとなしい性格だ」とか「整理整頓が上手だ」とか、「料理が得意だ」といった具合です。心理学では外から自分を見ている自分によって、自分自身に評価を下すことを、「メタ認知」と呼びます。そして、メタ認知には二つの大事な働きがあります。一つは、自己評価の働きです。自分自身についての気付き・評価のことで、いわば内省です。二つ目はコントロール機能です。これは、自己評価の結果を踏まえて、目標の修正をしたり、新たな目標を設定したりすることです。このメタ認知は脳の中でも前頭葉の前の方(前頭前野)を中心とした働きです。この前頭前野は脳のその他の部分(頭頂葉、側頭葉、後頭葉)とそれぞれ密接な連絡路を持っており、必要に応じてこれらの部分と情報を交換して、協調して働いています。脳外傷によって、前頭前野が損傷されるとメタ認知が働かなくなってしまいます。そのため、端から見ていると物忘れがひどいのに、「自分は記憶力が低下している」という自覚がありません。自分は普通だと思っているのに、「記憶力が悪いので病院へ行こう」と言われても、身に覚えの無いことを言われるのですから、驚き、反発するのも無理がありません。
 
 人が幸せに生きていくためには「自由」と「プライド(自尊心・自己価値)」が必要だと言われています。そして、病識欠落に対するリハビリテーションを行ううえで重要なことは、患者さんのプライドに配慮することです。メタ認知が障害されてもプライドは無くならないからです。不適切な行動や間違いを指摘・修正する場合には、プライドを傷つけ自信を無くさない配慮が必要です。