第17回 認知障害

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

岩田記念診療所医師
大阪市立大学脳神経外科非常勤講師
安井 敏裕

第17回 認知障害

2013.12.23

  「認知」という用語は、「認知症」という言い方で一般の方々の間でもよく知られている言葉ですが、どういう意味でしょうか。2001年度~2005年度までの5か年計画で厚生労働省が実施した高次脳機能障害支援モデル事業においても、「外傷性脳損傷などによる認知障害を高次脳機能障害と呼び、そのために生活の困難をきたしている者を高次脳機能障害者と定義する」とされています。すなわち、国の支援モデル事業においては「認知障害」と「高次脳機能障害」とは同じ意味を持つものと理解されています。今回は「認知」という用語について少し説明します。

 たとえば、赤いリンゴが目の前にあるとします。私たちは目や鼻や手の感覚から、丸い形をしており、色が赤く、いい匂いがし、触るとつるつるしていることなどを感じ取ります。そして、頭の中の記憶と照合して、「これはリンゴである」と判断します。それが記憶にないものであれば、新たに記憶します。そして、産地は何処だろうか、美味しそうなのですぐ食べようか、あるいは白雪姫の話の例もあるので、毒が入っているかもしれないので食べないでおこうなどの判断をします。心理学では、この過程の前半、目や鼻や手、あるいは耳などである物の形、匂い、触った感じ、音などを感覚的に把握することを「知覚」と呼び、後半の記憶と照合して判断したり、覚えたり、思考することを「認知」と呼びます。すなわち、私たちは日々、外界を認知して生きているわけです。つまり、「認知」というのは正常な脳の働きです。従って、アルツハイマー病や脳卒中などの脳の病気で知的な能力が低下していく状態を、「認知症」と呼ぶのは厳密には間違っています。ちょうど、妊娠できない状態を、「妊娠症」と言っているのと同じことです。妊娠できない場合には、「不妊症」と言うのが正しいわけですから、「認知症」も「不認知症」や「失認知症」と言うのが本来は正しい言い方です。ちなみに、台湾では日本の「認知症」に当たる状態は「失智症」と言うそうですが、極めて当を得た表現です。