第14回 神経新生

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

岩田記念診療所医師
大阪市立大学脳神経外科非常勤講師
安井 敏裕

第14回 神経新生

2013.07.17

 1990年代の10年間はアメリカでは"Decade of Brain"(脳の10年)と言いわれました。脳研究に多大の予算が投入され、脳科学が大いに進歩した期間です。しかし、現在でも脳科学は物理学にたとえれば、15~16世紀のレベルであると言われています。つまり、地動説を唱えたガリレオや運動の法則を発見したニュートンが現れる直前の時代ということです。すなわち、今の脳科学はまだ、学問的な体系や根本原理もない状態と言えます。この根本原理をはじめ、脳に関する多くのなぞが21世紀に解き明かされるのが待たれています。

19世紀後半から20世紀にかけて活躍したカハールというスペイン人の解剖学者は大変有名な先生で、脳の研究者なら誰でも知っています。この先生は、当時支配的であった「脳細胞(ニューロン)はお互いに連続して網目状につながっている」という説を覆し、「ニューロンとニューロンは連続しておらず、互いの間にはシナプスという間隙がある」という主張で1906年にノーベル賞をもらっています。この先生は同時に、「大人の脳ではニューロンは分裂しない」とも主張しました。こういう偉い先生が言ったことは影響力が大きく、その後100年もの間、この説を誰も疑いませんでした。しかし、21世紀に入り、この説は覆り、今では大人の脳でもニューロンは分裂し、新しい神経細胞が毎日できていることが確認されています。特に、脳のなかでも記憶の中枢である海馬(側頭葉の内側)では積極的に「神経新生」が起きています。

私たちの日々の出来事は最初はこの海馬に蓄えられますが、①時間とともに海馬から消えてしまうか、②何度も繰り返し覚えるなど努力をすると、記憶は海馬から大脳皮質に移動してきちんと蓄えられ、いつでも思い出せる状態になるかのいずれかの経過を取ります。海馬で日々新生される神経細胞は、毎日海馬に一時的に蓄えられる多くの記憶を、②のように積極的に大脳へ移動させてきちんと保存し、海馬をいつも新鮮な状態に保っておくのに役立っています。また、多くの実験結果から、この神経新生を盛んにする方法が三つ明らかになっています。
1)サンマなどの魚油に含まれる脂肪酸(DHAやEPA)を食べる、
2)適度な運動をする、
3)一人で閉じこもらず社会や人との関係を保つ
の三つです。
これらは誰でも努力次第で出来ると思いますから、若々しい記憶力を保つために頑張りましょう。