第13回 高次脳機能障害の画像所見

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

岩田記念診療所医師
大阪市立大学脳神経外科非常勤講師
安井 敏裕

第13回 高次脳機能障害の画像所見

2013.05.29

  「学術的」な高次脳機能障害は認知機能障害全般を指す広い概念で、研究者の間でもいろいろな考え方があり定まった診断基準はありません。

一方、主に頭部外傷のために前頭葉~側頭葉が損傷され記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などを呈した場合に、「行政的」な見地から2006年に便宜上、高次脳機能障害という診断が下されるようになりました。これらの方々がその後の社会生活に向けて適切な医療と福祉の連携により正しいサービスの提供がなされるようにするためです。

世の中に広く流布している「行政的」高次脳機能障害の診断基準は一見、明快ですが、実際に使用する場合には様々な問題が生じています。特に診断基準の中の「Ⅱ.検査所見」の項目は問題です。基準によりますと「MRI, CT, 脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる」とあります。これは厚生労働省による5年間(平成13~18年)の支援事業のデータの分析の結果、MRIおよびCTによる器質的病変検出率が88%であったことに基づいています。見方を変えますと、残り12%の人々は画像上の異常が無かったことにもなります。このことが、明らかに高次脳機能障害の症状があるにもかかわらず、自賠責保険の後遺症認定が受けられない人々を作ってしまう原因になっています。2006年に、「画像所見上の異常は高次脳機能障害診断の必要条件にはならない」という裁判所の判決が出ました。このことは患者救済の面では大変意味のあることだと思いますが、頭部外傷急性期の画像診断の基本がCTスキャンであるという現状がある限り問題は解決しません。頭部外傷の診療に関わる脳外科医が、慢性期の「行政的」高次脳機能障害の診断においては画像上の異常所見の有無が非常に重要であるという認識を持ち、頭部外傷急性期の治療上必ずしも必要でないことが多いMRI検査ではありますが、将来的に高次脳機能障害の疑いが少しでもある場合には、敢えて行っておくことが必要であると思います。しかも、その際には通常のMRI撮像法ではなく、出血を伴う微細な脳損傷を高感度に描出できるT2*(T2スター)という撮像法を行っておくことが重要です。たとえMRIを行っても、通常の撮影法では軽微な脳損傷を描出できないことがあるからです。

われわれ脳外科医は急性期頭部外傷の重症患者さんの治療には昼夜を徹して頑張りますが、急性期を脱した軽症患者さんには積極的に関わってこなかった経緯があります。便宜上定められた「行政的」高次脳機能障害の診断には今でも違和感を感じる脳外科医は私を含めて多いと思いますが、急性期の治療が終了した後に正しい診断を受けていないために、適切な訓練や支援サービスを受けることが出来ず、結果としていわば「医療と福祉の谷間」に落ちてしまっている高次脳機能障害の患者さんが多くおられる現状を見るにつけ、「行政的」高次脳機能障害の診断を意識して頭部外傷患者さんの急性期にMRI検査を行っておくことの重要性を再確認しております。