第12回 高次脳機能障害の主要症状について

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

岩田記念診療所医師
大阪市立大学脳神経外科非常勤講師
安井 敏裕

第12回 高次脳機能障害の主要症状について

2013.04.23

 これまで何度か書いて来ましたように、厚生労働省は5年間の支援事業による13施設(424例)の分析結果を基に、2006年に行政的な見地から高次脳機能障害の診断基準を作成しました。この時に定められた診断基準によりますと、まず最初に「主要症状である記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害の四症状のために、日常生活または社会生活に制約があること」と書かれています。これを読みますと、一般の方々はこれら四症状が、それぞれ単独で現れるように思われるかもしれませんが、実はそうではありません。これら四症状はお互いに密接に関連しており、重複して見られることの方が多いのです。ここで、厚生労働省支援事業の結果をもう少し詳しく見てみます。これら四つの症状の中で比率の高いものを三つ挙げますと、「記憶障害」(90%)、「注意障害」(82%)、「遂行機能障害」(75%)となります。そして、これらの症状を三つ併せ持つ例が70%、二つ併せ持つ例が12%となっており、単独例は18%のみでした。当然ですが複数併せ持つ方が重症になります。「記憶障害」と「注意障害」の関係について考えてみます。私たちは日々多くの情報・出来事に触れますが、ほとんど記憶に残りません。私たちが「注意」を向けたものだけが記憶として脳に保存されます。従って、「注意障害」があると「記憶障害」が起こります。次に、「注意障害」と「遂行機能障害」について考えて見ます。複数の情報を同時に処理することができない、頭の中でシミュレーションし計画を立てることができない、順序立てて行動することができないなどを「遂行機能障害」といいます。たとえば、夕食にカレーを作ることを考えてみます。そのためには、「今夜はカレーを作る」という目標、「肉屋と八百屋へ行って肉や人参、玉ねぎを買う」という計画・判断、「それぞれの店でいくらお金を払う」というシミュレーションなどを立てる必要があります。すなわち、この「目標」、「計画・判断」、「シミュレーション」の三つくらいに注意を向ける必要があります。従って、「注意障害」があると、「遂行機能障害」が起こってしまいます。さらに、人間は職場、家庭、地域などから期待される役割を果たしながら日々生きている「社会的存在」ですが、「記憶障害」、「注意障害」、「遂行機能障害」などがあると、「期待される役割」をうまく果たせなくなってしまいます。その結果、人とのコミュニケーションがうまく行かない、物事にこだわる、意欲が低下する、感情のコントロールがうまく行かないなどの「社会的行動障害」を生じることになります。以上述べてきましたように、高次脳機能障害の四つの主要症状はお互いに密接に関連しています。