第10回 医療機関への周知、医師への啓発

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

岩田記念診療所医師
大阪市立大学脳神経外科非常勤講師
安井 敏裕

第10回 医療機関への周知、医師への啓発

2012.10.11

 脳外科医になり今年で35年目になりますが、私にとっては、今ほど高次脳機能障害の診断書作成が容易になった時代はありません。このコラムの一回目に書かせていただきましたように、我々脳外科医は「高次脳機能障害」というのは、伝統的、医学的ないしは学問的に「失語、失認、失行」という症状が主たる症状であって、現在広く流布している「記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害」などの認知障害を主要症状とする障害を「高次脳機能障害」とよぶことに大変抵抗があります。
 しかし、長く脳外科医をしておりますと脳損傷によってこのような認知障害を持つに至った人達が、外見上は異常なしに見えたり、また病院にいる間に気付かれないことから、脳損傷による後遺症であると気づいた時にはどこで訓練や支援サービスが受けられるのかよく分からず、また相談も出来ず、結果として医療や福祉の間に落ちてしまっている現状も見てきております。最近は脳外科医の間でも徐々に、行政の障害保健福祉分野における「高次脳機能障害」の診断とは、「学問的」高次脳機能障害の有無を問うのではなく、このような認知障害を持つ人達をいわば「行政的」高次脳機能障害者と診断して医療・福祉サービスの提供へ門戸を開くことだと言う認識が広がりつつあると思います。

 現在のように、保険会社や裁判所も受けいれている「行政的」高次脳機能障害の診断基準がない時代には、高次脳機能障害の診断書を作成するのに大変苦労をしました。すなわち高次脳機能障害の診断書を作成しても、保険会社からのクレームで何度も書き直しをさせられたり、追加の資料を要求されたりということが多く、いったい誰がどんな基準で高次脳機能障害の判定を下しているのかと腹立たしく思ったこともありました。また、自賠責保険で高次脳機能障害の診断が認められず裁判になったことも何度かありましたが、その際に法廷で保険会社側の弁護士から「まず最初にお伺いします。先生は高次脳機能障害の専門家ですか?」などという悪意を感じる質問を受けたこともありました。このような時代を経験してきておりますので、現在は本当に高次脳機能障害の診断が容易になったと思うわけです。しかし、一方で、高次脳機能障害の判定が学問的でなく、いわば行政的な基準でなされていることは、今でも十分には医療機関へ周知されておらず、また医師への啓発も不十分であることも事実です。この点を改善すれば、わざわざ、他府県から私が勤務している大阪の小さな診療所へ高次脳機能障害の診断書作成に来る必要がなくなるのではないかと思います。