第8回 ソーシャルブレインズ(社会脳)

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

岩田記念診療所医師
大阪市立大学脳神経外科非常勤講師
安井 敏裕

第8回 ソーシャルブレインズ(社会脳)

2012.09.09

 私たちの脳は、一人ではありません。周りの人をいつも気にして、誰かとつながりたいと考えています。そんな本来社交性の高い脳の仕組みを知るには、一人 の時の脳の働きではなく、脳と脳がコミュニケーションしている時の仕組みを調べなければなりません。これまでの脳科学研究では主に一人の時の脳の仕組みが 調べられてきましたが、脳と脳がコミュニケーションしている時の仕組みを明らかにしようとする試みが「ソーシャルブレインズ(社会脳)」の研究です。例え ば、サルを用いた「社会脳」研究によって、一匹でエサを食べている時の脳の働きと、そこへもう一匹のサルが現れた時にエサを食べる時の脳の働きが明らかに 違うことが解明されています。

  複雑な要素が絡み合う高次脳機能障害に対する認知リハビリテーションは、まだまだ暗中模索の段階にあり、発展途上であると言えます。そんな中で、前述した 「ソーシャルブレインズ(社会脳)」の考え方から言うと、高次脳機能障害に対して行われる「グループ訓練」は大変有効な手段である可能性があります。例え ば高次脳機能障害を持った人たちが定期的に集まって、各自が自分の身近にあったことを皆の前で報告し、そして互いにコミュニケーションすることは、普段一 人の脳では働かない別の場所の脳のネットワークを働かせることになり、的確な記憶の再生、問題行動の理解、自分が持つ問題点の自覚等に役立つ可能性があり ます。
 高次脳機能障害のリハビリテーションを考える場合のキーワードとして、「連続性」と「多様性」が知られています。「連続性」とは急性期病院で の救命救急医療と早期リハビリテーションや退院後の地域復帰プログラム、地域ケアなど安定した生活に戻るための諸方策が一貫することの重要性を示してお り、「多様性」とは高次脳機能障害の人たちは一人一人の障害がみな異なっており、その人の持つ背景や周囲の環境との関係で一層複雑なものになります。従っ て、そのことをよく理解した上でリハビリテーションやケアに関する対策をたて、社会資源の利用法を考える必要性があることを示しています。
 この「多様性」について考えさせられた私の経験を提示します。二人の高次脳機能障害の患者さんで、共に20歳代の若い男性です。この二人に前 述の「グループ訓練」への参加を勧めましたが、二人とも参加を拒否しました。一人は、「以前に一度参加した経験があるが馴染めなかった。」、もう一人は 「一度、見学した経験があるが全く面白いと思えず、参加している患者さん達も嫌々やっているのが分かった。」と言って断りました。リハビリテーションの効 果を論ずる前に、そのリハビリテーションプログラムへの参加自体を拒否されるという経験を通して、患者さんの「多様性」について再認識した次第です。