第7回 短期記憶と近時記憶

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脳外科医から見た高次脳機能障害 特別寄稿

岩田記念診療所医師
大阪市立大学脳神経外科非常勤講師
安井 敏裕

第7回 短期記憶と近時記憶

2012.09.09

 最近、「臨床医が語る認知症の脳科学」と言う本を読みました。著者の岩田先生は東京女子医科大学名誉教授で日本を代表する神経内科医です。この本の中で 岩田先生が困ったことだと嘆いておられる箇所があります。原文のまま引用しますと、「現在(2009年)使用されている介護認定の主治医の意見書の書式に は、短期記憶の障害の有無をチェックする欄がありますが、そこは用語法の間違いです。そこは、短期記憶ではなく近い記憶(近時記憶)の障害の有無が記載さ れるべき欄です。多くの認知症患者では、症状が相当に進行してこないかぎり、正しい意味での短期記憶には障害は生じません。用語法の間違った意見書書式が 用いられているのは、困ったことです。」となっています。確かに私自身の経験でも認知症の方に長谷川式認知症スコアーを行なうと、大抵の場合は直後には 「桜、猫、電車」と言えても、数分後には忘れてしまっています。私は介護認定の主治医意見書を多く書いていますが、認知症の中核症状の欄にある短期記憶の 有無を問う箇所には大抵の場合「有り」にチェックしてきました。
 現在、記憶障害には種々の分類法がありますが、過去を回想する時の把持時間に注目すると短い順に、即時記憶、近時記憶、遠隔記憶に分類されます。即時記 憶は数秒~数十分の記憶、近時記憶は数分・数時間~数ヶ月の記憶、遠隔記憶は数年~数十年の記憶と見做されています。一方、心理学用語としては、即時記憶 が短期記憶、近時記憶と遠隔記憶は長期記憶に含まれます(図)。即時記憶すなわち短期記憶は数十秒という目安がありますが、長期記憶に含まれる近時記憶と 遠隔記憶は相対的な対比で論じられることが多く、時間的な明確な定義はないようです。
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 さて、ここで介護認定の主治医の意見書の書式の話に戻りますが、主治医意見書作成の手引き書によりますと、「短期記憶」の有無の判定方法は、 「例えば、身近にある3つのものを見せて、一旦それをしまい、5分後に聞いてみる等」と書いてあります。前述したように即時記憶は数秒~数十分の記憶、近 時記憶は数分・数時間~数ヶ月の記憶となっていますから、5分間の記憶は即時記憶(短期記憶)とも言えますし、近時記憶とも言えます。しかし、前述しまし たように、一般的には即時記憶(短期記憶)には数十秒という目安があるようですから、5分間の記憶については岩田先生が指摘されていますように即時記憶 (短期記憶)よりも近時記憶と言う方が妥当と思われます。